「お姉ちゃん、どこ?」
 あき子は、手を動かして、自分のまわりに何かないか、探してみましたが、何も触ることが出来ません。手を大きく動かしてみましたが、やはり何もありません。足を踏み出そうとしましたが、もみがらにうまっていて、一歩前に進むのもたいへんです。
 「あき子、もう少しすると、目がなれてくるから、それまでじっとしていなさい。」と、お姉ちゃんの声がしました。
 「もう少しってどのくらい?だって真っ暗でこわりんだもの。」と、言うと
 「だって、あき子が悪いから、けんかになったんでしょ。」と、いつもよりこわいお姉ちゃんの声がします。
 「でも・・・」と、言いかけたあき子は、『真っ暗でこわいし、いつものお姉ちゃんと違うし。』と、思うと、自然と涙が出て来てしまいました。声を出して泣くと、お姉ちゃんにもお父さんにも怒られそうなので、じっと我慢していました。
 しばらくすると、
 「あき子、泣いたって出してもらえないからね。」と、お姉ちゃんの手が、あき子の方をそっと撫ぜてくれました。
 「えー、」、お姉ちゃんが傍にいます。
 「こんな、傍にいたの。」と、言い、又、涙が出て来てしまいました。
 「もう少ししたら、お母さんが助けに来てくれるから、それまで我慢だよ。」
 「えー、お母さん、来てくれるの?」
 「いつもは、そうだけれどね。」と、お姉ちゃんは落ち着いています。
 「あき子、静かにしていると、お母さんの足音が聞こえるよ。」
 「聞こえないよ。」と、あき子が言うと、
 「まだ、早いよ。悪い事をして、入れられたんだから、すぐには出してくれないよ。」
 「えー、まだまだなの?」
 「そうだよ。でも、あき子、一人だともっとこわいよ。さつまいもを食べにくるねずみが、まちがえて足をかじるかもしれないしね。」
 「えー、ねずみがいるの?」
 「これだけ、おいしいさつまいもがるんだもん。」と、足元を指差して、言いました。
 「ずっと前に、むろの土壁をなおしたの、忘れちゃった?」
 「あっそうか。そこに入れられてるの?」
 「そうだよ。どこに入れられたと思っていたの?」
 「だって、あの時は、中も明るかったし。」
 「蓋もしてなかったからね。ほら、上を見てごらん。小さな隙間の所が明るいでしょ。」と、お姉ちゃんに言われ、上を見てみました。ほんの少し、光が差しています。
 それを見てあき子は、なにかほっとしたような、でも、ねずみがどこからか見ているような変な気持ちです。『でも、お姉ちゃんと一緒で、よかったなあ。』と、けんかをして、入れられた事など、すっかり忘れてしまいました。
 急に、あたりが明るくなり、上を見ると、そこには、お母さんの顔があります。
 「きちんと、お父さんにあやまりなさい。」と、いい、はしごを上からおろしてくれました。
 はしごをのぼり、外に出たあき子は、
 『もう、絶対、入りたくない!』と、
 思いました。